「それ、ノーコードで十分できますよ」
「いや、そこはちゃんと作り込まないと後で困ります」
社内のAI導入や業務システムの相談をすると、この正反対の答えが両方返ってきます。どちらも間違ってはいません。困るのは、どちらが自社に当てはまるのかを決める物差しが誰も出してくれないことです。
私(UMEO CREATE・伊藤)は群馬県を拠点に、中小企業の業務システムを実際に作って、そのまま保守まで担当しています。勤怠、点呼、見積、給与、進捗管理。作ったものもあれば、あえて作らずに済ませたものもあります。
この記事では、その現場で実際に使っている判断基準を5つ、包み隠さず書きます。一般論ではなく、稼働中の案件で自分が選んで、直して、たまに失敗した話です。
打ち合わせ机の上で、付箋を貼った業務フロー図を前に腕組みをして考え込む40代の男性経営者
まず、これは二択ではありません
「ノーコードか、プログラミングか」と並べられがちですが、実際の現場には3段階あります。ここを分けないと話が噛み合いません。
| 段階 | 中身 | 例 |
|---|
| ① そのまま使う | 市販のサービスや既存の道具を、設定だけで使う | クラウド勤怠サービス、スプレッドシートの手入力 |
| ② いつもの道具に仕掛けを足す | 今使っている道具の上に、自動処理だけを乗せる | スプレッドシート+自動処理、LINEで打刻、フォームで受付 |
| ③ 専用の画面を作る | 業務専用の入力画面・一覧画面を開発する | 現場のタブレット用アプリ、見積作成システム |
世間で「ノーコード」と呼ばれているものは①と②にまたがっています。そして、中小企業の案件でいちばん費用対効果が良いのは、たいてい②です。①では例外に耐えられず、③は作る費用も維持する手間も一段跳ね上がるからです。
ですから実務上の問いは「ノーコードか開発か」ではなく、「①で足りるか、②で足りるか、③まで必要か」になります。以下の5つは、その線を引くための物差しです。
分かれ目1:いまのやり方に「例外」がいくつあるか
市販のサービスをそのまま使う(①)のが成立するのは、自社のやり方が、そのサービスの想定どおりのときだけです。
判断は簡単で、例外を数えます。「締め日は15日、ただしこの部署だけ月末」「この資格を持った人だけ単価が違う」「この作業のときだけ承認が2人必要」。こうした例外が3つを超えたあたりから、市販サービスの設定画面では表現しきれなくなり、結局その部分だけExcelで手作業が残ります。
残った手作業は、たいてい一番ミスが起きるところです。 全体の9割をきれいにしても、残った1割に毎月ひやひやするなら、その導入は成功とは言えません。
逆に、例外がほとんどない業務(たとえば一般的な経費精算)は、素直に市販のサービスを入れるのが一番安く、一番早いです。そこに開発費をかけるのは、私はお勧めしていません。
分かれ目2:全員が毎日触っている道具があるか
これは費用の話ではなく、定着するかどうかの話です。
従業員4名の会社で勤怠管理の仕組みを作ったとき、専用のアプリは作りませんでした。全員がふだん使っているLINEで打刻する形にしました。理由は単純で、専用アプリを配ると、インストールしてもらう手間と、使い方を説明する手間が必ず発生するからです。LINEならその手間がゼロで、初日から運用が始まりました。
自由に書かれた「昨日の退勤、18時じゃなくて19時でした」のような文章を読み取って修正申請に変換する部分だけ、AIに任せています。新しい画面は1つも作っていません。
一方、別の福祉事業所様(2事業所・職員と利用者を合わせて約80名)の勤怠と点呼は、タブレット用の専用画面を作りました(③)。こちらは全員が毎日触る共通の道具がなく、送迎前の慌ただしい時間に大人数が順番に操作するため、専用の画面が必要でした。
見るべきは「その会社に、すでに全員の手のひらにある道具があるか」です。あるなら、まずその上に乗せられないかを考えます。道具を増やさないほうが、費用も下がり、定着率も上がります。
休憩スペースで、作業着姿の男性がスマートフォンを片手に同僚と打刻のやり方を話している様子
分かれ目3:自社にしかない計算が、どれだけ埋まっているか
ここが③(作り込み)に振れる、最も強い理由です。
電気設備工事の会社様で、長年使ってきたExcelの見積書をWebシステムに作り替えました。この案件で作り込みが必要だったのは、画面が欲しかったからではありません。材料・機器・盤・工事費・経費・値引きを、それぞれ別の原価ブロックで持ち、行ごとに対応させて利益を出すという、その会社が積み上げてきた計算の形が、市販の見積ソフトの型に収まらなかったからです。
こういう計算は、たいていExcelの中に何年もかけて埋め込まれています。作った本人も全部は説明できないことが多く、私は移行時に過去の見積413件をすべて取り込んで、1件ずつ金額が一致するかを機械的に照合しました。結果、不一致は元データ側の丸め誤差1件(83円)だけでした。
判断の言い方を変えるとこうなります。「この計算、他社のソフトで置き換えたら、いくらかズレますか」 ズレが1円も許されない性質のものなら、作り込みを選ぶ理由になります。逆に「まあ近い値が出れば良い」なら、既製品で十分です。
分かれ目4:そのデータを、人に直接触らせてよいか
②(スプレッドシート+自動処理)の最大の弱点は、シートそのものが画面なので、誰でも中身を書き換えられることです。
社会保険手続きの進捗を管理する仕組みは、あえてスプレッドシートのまま残しました。事務所の複数名が同時に入力する業務で、期限が近いものを色分けし、緊急なものが上に来るよう並べ替える処理が毎日深夜に自動で走ります。表を直接編集できることが、この業務では利点でした。担当者が急ぎの案件を自分の判断で足せます。
逆に、打刻のように後から書き換えられては困るデータは、シートを直接触らせません。専用画面を作り、入力も修正もすべてアプリ経由にします。
この線引きは、実は一段細かい判断に続きます。同じ「専用画面を作る」でも、簡素な画面で済むのか、本格的な作りが必要なのかは別の問題です。そこはGAS勤怠アプリにReactは必要か|判断の分かれ目3つに、実案件3件の基準をまとめています。
事務所で2人の女性スタッフが1台のノートパソコンの画面を指さしながら確認している様子
分かれ目5:壊れたとき、誰が何分で直せるか
作り込みを選ぶときに、見積書には載らないのに確実に発生するのが維持の手間です。ここを正直に書きます。
先ほどの福祉事業所様のアプリは、画面が16あります。1か所直すたびに他が壊れていないかを確かめる必要があるため、自動の確認テストを134件用意して、毎回まとめて走らせています。それでも機械のチェックだけでは足りず、実際に画面を目で見て気づいた不具合があります。
たとえば、朝の打刻ボタンが消えるという報告がありました。原因は、日付を世界標準時で計算していたため、日本時間の朝9時前だけ前日の日付として扱われていたというものです。9時を回ると勝手に直るので、現場も再現できませんでした。
また、別の案件では、公開設定の記述が抜けた状態で再デプロイしたところ、動いていたシステムが丸ごと表示されなくなったことがあります(詳しくは本番を2回壊して学んだ。GASデプロイ後に必ず見る3つに書きました)。
こうした話をすると怖く聞こえますが、逆側にも同じだけのリスクがあります。 市販のサービスも、ある日仕様が変わって画面が入れ替わります。ノーコードなら壊れない、のではありません。壊れたときに自分たちで直せるかどうかが違うだけです。
ですから質問はこうなります。「これが月曜の朝に止まったとき、誰が、何分で、直せる状態にありますか」 社内に直せる人がいないなら、作り込むこと自体より、作った人が保守まで続けて見る体制があるかのほうが重要です。
迷ったら「一番軽い形で1か月」
ここまで5つ挙げましたが、最初の相談の段階で全部が分かることはまずありません。ですので、私は判断を後ろにずらすやり方をお勧めしています。
1. まず①か②の、一番軽い形で作る(スプレッドシート+自動処理、フォーム受付など)
2. 1か月、実際の業務で使う
3. そこで初めて分かる例外と不満を書き出す
4. それが「画面がないと無理」なら③へ進む
軽い形で1か月動かすと、机上のヒアリングでは絶対に出てこない要望が出てきます。「この項目、実は誰も見ていなかった」「この並び順じゃないと朝の作業が回らない」。この情報を持ってから設計したほうが、最初から作り込むより安く、外れません。
実際、当社が支援している会社様も、いきなり全部をシステムにしたわけではありません。時間を取られている業務から1つずつ、効果を確かめながら置き換えています。
なお、②や③をGoogleの環境の上で作る場合、動かせる処理の量にはっきりした上限があります(1回の処理は6分まで、など)。その上限と、それを超える規模での選択肢は業務システム開発は1ツール50万円から|Google環境で作る理由に数字で書いています。
窓際の机で、ノートに手書きで業務の優先順位を書き出している男性の手元
まとめ:5つの物差し
社内のAI導入・システム化を、ノーコードで済ませるか作り込むか。判断の分かれ目は次の5つです。
1. 例外がいくつあるか — 3つを超えると、市販のサービスでは手作業が残る
2. 全員が毎日触っている道具があるか — あるなら、その上に乗せる。道具を増やさない
3. 自社にしかない計算が埋まっているか — 1円もズレてはいけないなら作り込む
4. データを人に直接触らせてよいか — 書き換えられては困るなら専用画面
5. 壊れたとき誰が何分で直せるか — 作る側より、直し続ける体制のほうが重要
そして迷ったら、一番軽い形で1か月動かしてから決める。これが、私が現場で一番外さないやり方です。
当社の業務システム開発の考え方と費用は業務システム開発のページにまとめています。「そもそもどの業務から手をつけるべきか」が決まっていない場合は、先に無料の簡易業務診断(DXカルテ)で、どの業務に月いくら掛かっているのかを数字にすることをお勧めします。一番高くついている業務から着手するのが、一番早く元が取れます。
※記事中の金額・仕様はすべて一例です。ご予算に合ったプランのご提案が可能ですので、まずはご相談ください。
【群馬・北関東の中小企業・ひとり社長のAI導入をサポート】
UMEO CREATE(ウメオクリエイト)では、群馬県(高崎・前橋・太田・伊勢崎・吉岡町など)を中心に、中小企業や個人事業主・ひとり社長様向けの「AI導入・業務自動化・DX伴走コンサルティング」を行っています。
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