「うちもAIを入れないと、取り残されるのでは」
群馬の製造業の方とお話しすると、こうした声をよく聞きます。ニュースでは生成AIの話題が毎日のように流れ、展示会でも「AI」の文字が目に入らない日はありません。
では、群馬の中小製造業で、実際に成果を出している会社は何から始めていたのでしょうか。
当社は2026年10月に、群馬県・県の公設試験研究機関・日本政策金融公庫などが公開している資料を当たり、北関東の中小製造業の事例を集めました。群馬県内の会社の事例は16件見つかりました。読んでみて分かったのは、原文に「AI」と書かれている事例は一部で、多くはロボット、IoT(機械をネットワークにつないで状態を見える化すること)、ノーコードの道具から始まっていたということです。
この記事では、その中から、公的機関の資料で取り組みと数字を確かめられた群馬の3社を紹介します。3社とも当社のお客様ではなく、公開資料に載っている事例です。数字は、すべて2026年10月19日に元の資料を開き直して確認しました。
この記事の目次(9項目)
中小製造業の省力化は、なぜ「AI」より「ロボット・IoT」から始まるのか
最初に、言葉の整理をしておきます。
- ロボット・自動化機械: 人の手で行っていた「曲げる」「磨く」「詰める」といった作業を、機械に置き換えるもの
- IoT: 機械にセンサーをつけたりネットワークにつないだりして、「動いているか」「止まっていないか」を離れた場所から見えるようにするもの
- AI: データから判断や予測をさせるもの。最近は、文章を作る生成AIもここに入ります
どれも「人手不足を補う」という目的は同じです。違うのは、何を置き換えるかです。ロボットは手の作業を、IoTは見回りや確認を、AIは判断や文書作りを置き換えます。
製造業の現場で人手が足りなくなる場所は、まず手の作業と見回りです。夜間や休日に機械を見に行く人がいない、きつい研磨作業を担う人が集まらない、といった困りごとです。こうした困りごとには、AIよりもロボットやIoTのほうが直接効きます。今回読んだ資料でも、この順番がはっきり出ていました。
なお、国の「中小企業省力化投資補助金」も、人手不足の解消に効くロボットやIoT機器などを対象にした制度です。補助の金額や要件は改定されることがあるので、使うときは公式サイトで最新の内容を確かめてください。
事例1:ロボットで工程の7割を自動化した板金加工会社(高崎市)
どんな会社か
高崎市の株式会社行田製作所は、約60年の業歴を持つ板金加工の会社です。従業者数は40人。エレベーターの制御盤を囲う筐体(きょうたい)などを、板金から組み立てまで一貫して手がけています。日本政策金融公庫 総合研究所のレポート「省力化投資で人手不足に対応する中小製造業」(2024年6月)で紹介されている会社です。
何をしたか
同社は2016年から、工程ごとに少しずつ機械を入れていきました。
- 2016年: 穴あけと切断を自動で行う複合加工機
- その後: 曲げ加工を自動で行うロボットシステム、溶接ロボットなどを順に導入
- 最後に残った仕上げ(研磨)の工程は、汎用のロボットアームを改造した研磨ロボットを自社で開発
レポートの見出しには「全工程の7割を自動化」とあります。また、自社開発した研磨ロボットは、試作品の研磨で仕事の7割くらいを担い、残り3割を人の手で仕上げている、と書かれています。この2つの「7割」は別の数字です。
どう変わったか
レポートによると、2016年からの8年間で、従業員数を維持したまま売上を約40%増やし、残業時間は半分に減ったとされています。賃上げも続けているそうです。
当社が注目した点:ベテランの反発をどう越えたか
この事例でいちばん参考になるのは、機械の話よりも人の話です。
新しい機械が入った当初、ベテランからは「手で曲げたほうが速いのではないか」という反発があり、「雇用を減らすための投資ではないか」と身構える従業員もいた、と書かれています。社長は、省力化の目的を従業員に何度も説明したそうです。競争力を磨くためであること、そしてこれからのものづくりに必要なスキルを皆で身につけるためであること、の2つです。
プログラムの間違いで穴の位置がずれる、ワークが機械に干渉して止まる、といった試行錯誤を経て、現場も少しずつ機械の良さを理解していった、とあります。
機械を入れることより、現場が使う気になることのほうが時間がかかる。 これはAIの導入でもまったく同じです。
事例2:夜間休日を「ほぼ無人」にしたプラスチック成形会社(富岡市)
どんな会社か
富岡市の株式会社土屋合成は、精密プラスチックの射出成形を行う会社です。従業者数は75人。ボールペンやシャープペンシルのボディ部分などを、月300品目・6,000万個つくっています。同じ公庫総研のレポートで紹介されています。
何に困っていたか
以前は、約60台の射出成形機が動いているかを、従業員が見回って確認していました。夜間や休日は人が手薄になり、機械が少しだけ止まる「チョコ停」が起きても、気づくのが遅れていたそうです。小さな製品の傷を顕微鏡で一つずつ確かめる検査も、人によって判断がばらつく原因になっていました。
何をしたか
順番に見ると、次のとおりです。
1. 製品から余分な部分を切り離す作業に、専用のロボットを導入
2. 検査の工程に、画像認識機能を使って検査できる機械を導入(1日あたり約1万個を自動で検査)
3. 梱包の工程に、取り出しから計量・箱詰めまでできる機械を導入(1日あたり約2万個を袋詰め)
4. 約60台の射出成形機の稼働状況を、社内のどこからでも画面で確認できるシステムを構築
5. 数百種類ある材料の管理にIoTを活用し、どの材料がいつどの機械に使われたかを追えるようにした
どう変わったか
レポートによると、検査と梱包の工程は無人で動かせるようになり、10人以上の従業員が、慎重さを求められる単調な作業から離れられたとされています。機械の異常は画面上で赤く表示されるため、見回りが要らなくなり、夜間や休日もほぼ無人で稼働できるようになりました。2023年の売上高は約17億円で、社長が就任した2006年の約4倍になっています。
この事例の検査機は「画像認識機能」と書かれていて、AIという言葉は使われていません。成果の中心は、ロボットとIoTによる「見回りと単純作業の置き換え」です。
射出成形機が並ぶ工場と、壁の稼働状況モニター(画像はAIによるイメージです。記事中の企業とは関係ありません)
ここでも、最初の壁は人だった
1台数百万円の機械を入れるとき、現場からは「本当に職場が良くなるのか」「自分の仕事がなくなるのではないか」という不安や反発があったそうです。社長は機械の性能や便利さを丁寧に説明し、導入後に「仕事が楽になった」と実感してもらうことで納得を得た、と書かれています。
事例3:生成AIで見積と文書作成を速くした板金会社(みどり市)
どんな会社か
最後は、AIを正面から使っている事例です。みどり市の株式会社協和は、精密板金・一般板金加工の会社です。群馬県が2025年12月に伊勢崎市で開いた「リスキリングの取組事例を知る企業交流会」に社長が登壇し、その内容が県の「かわら版」第14号にまとめられています。
何をしたか
県のかわら版によると、取り組みは次の4つです。
1. 学習時間の制度化(週1時間程度を確保)
2. サポート体制(AIの活用事例の共有、理解度の確認、伴走支援)
3. AIの活用促進(メールや議事録の作成などで積極的に使い、成果を体感する)
4. 制度の整備(有料版の生成AIの利用ルールを策定)
どう変わったか
発表によると、AIの活用で、図面管理・見積・文書作成・検査などの工数を大幅に削減したとのことです。例として、見積作成は30から70%短縮、文書作成は2から3倍速、検査の見落としが減少、が挙げられています。教え合い・学び合いが定着して、社内のコミュニケーションも良くなったそうです。
工場に隣接する事務所で、図面とノートパソコンを見ながら打ち合わせる2人(画像はAIによるイメージです。記事中の企業とは関係ありません)
当社が注目した点:道具より先に「時間」と「ルール」
この事例で目を引くのは、AIの道具の名前ではなく、学習時間を制度にしたことと、有料版の生成AIの利用ルールを作ったことです。
無料版のまま個人の判断で使わせると、入力してはいけない情報が混ざる心配があります。週1時間でも業務時間の中に学ぶ時間がないと、使える人と使えない人の差が広がります。協和の取り組みは、この2つを先に手当てしています。
3社に共通していたこと
3つの事例を並べると、共通点が見えてきます。
| 行田製作所(高崎市) | 土屋合成(富岡市) | 協和(みどり市) |
|---|
| 置き換えたもの | 手の作業(曲げ・溶接・研磨) | 単純作業と見回り | 文書作成・見積 |
| 使った道具 | ロボット・自動化機械 | ロボット・画像認識の検査機・IoT | 生成AI |
| 進め方 | 2016年から工程ごとに順番に | 一つの作業から始めて広げた | 学ぶ時間とルールを先に整えた |
| 最初の壁 | ベテランの反発 | 現場の不安・反発 | (資料に記載なし) |
1. 一度に全部を変えていない
行田製作所は約8年かけて工程を一つずつ自動化しました。土屋合成も、一つの作業のロボットから始めて、検査、梱包、監視へと広げています。
2. 「どこで人が足りないか」から道具を選んでいる
手の作業が足りなければロボット、見回りが足りなければIoT、文書作りに時間を取られていればAI。道具が先にあるのではなく、困っている場所が先にあります。
3. いちばん時間がかかったのは、現場の納得
2社の資料には、現場の不安や反発がはっきり書かれています。どちらも、目的を説明し続け、楽になったことを実感してもらうことで越えています。
当社がAI導入のご相談を受けるときも、この3つは変わりません。「AIを入れたい」というご相談でも、話を聞いてみると、まず効くのは紙からの転記をなくすことや、機械の稼働を見える化することだった、ということがよくあります。業種ごとに最初に手をつける業務の違いは、AI活用事例を業種別に|中小企業5業種の最初の1業務にまとめています。
自社で始めるなら:最初に書き出す3つ
公開資料の事例を読んだうえで、当社がおすすめしている始め方です。
1. 人が足りない場所を「作業」で書き出す
「現場が足りない」ではなく、「夜間の見回り」「研磨」「見積の作成」のように、作業の単位で書き出します。
2. その作業を、手・見回り・判断や文書の3つに分ける
手の作業ならロボットや自動化機械、見回りならIoT、判断や文書なら生成AI、と当たりをつけます。AIありきで考えないことが大切です。
3. 現場に「何のためにやるか」を先に話す
「人を減らすため」と受け取られると、どんな道具も使われません。2社の事例のように、目的と、楽になる部分を先に伝えます。
人手不足の数字と、採用の前に数えておきたいことは、群馬の人手不足|求人倍率1.28倍、採用の前に数える3つに書きました。
この記事で扱っていないこと・ご注意
- 紹介した3社は、公開資料に載っている事例です。当社はこの3社の取り組みに関わっていません
- 数字は、各資料に書かれている会社の発表・取材内容をそのまま紹介したもので、当社が測ったものではありません
- 協和の「30から70%短縮」「2から3倍速」は、交流会での発表で例として挙げられた数字です。元の作業時間は資料に載っていません
- 「群馬の事例16件」は、当社が2026年10月に公開資料を当たって数えたもので、県内のすべての事例を網羅したものではありません
- 補助金を使う場合の要件・金額は、必ず公式の最新情報を確認してください
出典(2026年10月19日時点)
この記事の事例と数字は、次の資料を2026年10月19日に開いて確認したものです。
まとめ:AIの前に、どこで人が足りないかを見る
- 群馬の中小製造業の公開事例を読むと、AIより、ロボット・IoTから始めた会社が多い
- 高崎市の板金会社は、8年かけて工程の7割を自動化し、売上約40%増・残業半減(公庫総研レポート)
- 富岡市の成形会社は、ロボットとIoTで夜間休日をほぼ無人にし、10人以上が単純作業から離れた(同)
- みどり市の板金会社は、学習時間とルールを先に整えて生成AIを使い、見積作成を30から70%短縮(県のかわら版・発表)
- 3社とも、一度に全部を変えず、困っている場所から道具を選び、現場の納得に時間をかけていた
「うちもAIを」と考えたときは、まず、どの作業で人が足りていないかを書き出してみてください。答えがAIではなく、ロボットや見える化であることも、十分にあります。
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【群馬・北関東の中小企業・ひとり社長のAI導入をサポート】
UMEO CREATE(ウメオクリエイト)では、群馬県(高崎・前橋・太田・伊勢崎・吉岡町など)を中心に、中小企業や個人事業主・ひとり社長様向けの「AI導入・業務自動化・DX伴走コンサルティング」を行っています。
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