調べたこと、商談で気づいたこと、案件で踏んだ落とし穴。こうしたメモは、放っておくとパソコンのあちこちに散らばります。デスクトップのテキストファイル、スマホのメモアプリ、チャットの履歴、Googleドライブの奥。必要なときに限って見つかりません。
UMEO CREATEはひとり社長の会社なので、調べものも案件も全部ひとりで抱えています。「前にも同じことを調べたはずなのに、どこに書いたか分からない」が、ひとりだと起きやすいのです。
そこで2026年8月3日に、無料のメモアプリ「Obsidian(オブシディアン)」で会社の「第二の脳」を作りました。ルールは1つだけです。人はメモを放り込むだけ。整理はAIがやる。
45日たった9月17日の時点で、整理済みのノートは186本、元になった資料(動画の書き起こしなど)は662本になりました。この記事では、その作り方と、実際に運用して踏んだ4つの罠を書きます。社内の知見をためたい経営者の方、情報システム担当の方に向けた内容です。
Obsidianで第二の脳を作る理由:AIがそのまま読めるメモ置き場
朝の自宅の書斎で、窓際の机に向かいノートパソコンで考えごとをする男性の横顔
「第二の脳」とは、頭の中だけに置いておくと忘れてしまう知識を、外に書き出して、いつでも引き出せるようにしておく仕組みのことです。
メモアプリはたくさんありますが、Obsidianを選んだ理由は3つあります。
1. 中身がただのテキストファイル:Obsidianのメモは、パソコンの中の普通のフォルダに、Markdown(マークダウン:見出しや箇条書きを記号で書く簡単な書式)のファイルとして保存されます。専用のクラウドに閉じ込められません
2. AIがフォルダごと読める:普通のファイルなので、パソコン上で動くAI(UMEO CREATEではClaude Codeを使っています)が、フォルダを開いてそのまま読み書きできます。わざわざコピーして貼り付ける必要がありません
3. 仕事で使っても無料:Obsidianは2025年2月から、商用利用も含めて無料になりました(公式のライセンスページで確認できます)
2つ目が一番大事です。AIは、会話が終わると中身を忘れます。AI側にも「覚えておく機能」はありますが、入るのは要点だけです。生の知見、たとえば「なぜその設計にしたか」「どこでつまずいたか」を置く場所が、AIの外に必要でした。 しかもそれを、AIが自分で読みに行ける形で。
たとえるなら、AIは優秀だけれど毎朝記憶がリセットされる新人です。その新人に「困ったらこの棚を見てね」と言える棚を作った、というのが第二の脳の役割です。
構成は3つの置き場だけ。人は放り込み、AIが整理する
雑然としたデスクの上に置かれた付せんとメモ用紙の束を、男性の手が1枚ずつトレーに入れている手元
作ったフォルダの構成は、これだけです。
03_ナレッジベース/
├── index.md 入口(目次)
├── 00_inbox/ 放り込み口(整理しなくていい場所)
└── notes/ 1ファイル1テーマに整理したノート
人(私)が守るルールは2つだけにしました。
- 思いついたら
00_inbox に放り込む。整理しない - 気になる単語は
[[ ]] で囲む(Obsidianでは、[[ ]] で囲んだ言葉が別のノートへのリンクになります。リンク先のノートがまだ無くても構いません)
そして、整理はAIの仕事にしました。AIには次の3つを頼んでいます。
1. 取り込み:inboxのメモを読み、notes の中の適切なノートに追記する。1つのノートには1つのテーマだけを書く。新しいテーマなら新しいノートを作る
2. 問い合わせ:「前に調べた○○どうだった?」と聞かれたら、notes を読んで答える
3. 点検:リンク切れ、同じ内容の重複、古くなった情報がないかを定期的に見る
この「取り込み・問い合わせ・点検」の3段階は、AI研究者のアンドレイ・カーパシー氏が紹介した「LLM Wiki」という考え方と同じ形です。
人が整理しないことを最初に決めたのは、続けるためです。メモを書くたびに「どのフォルダか」「どのタグか」を考えていると、その手間がメモを書かない理由になります。放り込むだけなら、考えることは何もありません。
なお、AIに調べものを頼んだときの結果も、同じinboxに入れるようにしています。放り込み口を1つにしておくと、「どこに置いたっけ」が起きません。
45日で186本。たまった中身と、実際に効いた使い方
小さな会議室で、男性がタブレットの画面を見ながら向かいの相手に説明している様子
9月17日時点の数字です。
| 置き場 | 本数 |
|---|
| 整理済みのノート(notes) | 186本(8月に153本、9月に33本) |
| 元資料(動画の書き起こし・公的資料の控えなど) | 662本 |
| 案件ごとのノート | 24本 |
| 未整理のinbox | 7本 |
全部合わせても29MBほどで、パソコンの容量はほとんど使いません。
数が増えたことより大事なのは、使い道がはっきりしたことです。効いた使い方を3つ挙げます。
1. 商談の前に3本だけ読む
入口の index.md に「商談前に読む3本」を並べています。価格の話になったときの考え方、セキュリティの不安への答え方、小さな会社への提案の組み立て方、の3つです。商談の前に5分で読み返せます。
2. 新しい相談が来たら、似た案件を3分で探す
案件ごとのノートと、「業務の種類から似た案件を引く索引」を作りました。たとえば勤怠の相談が来たら、索引から過去の勤怠の案件を開き、そのときの値付けや、踏んだ罠をすぐ確認できます。
3. 動画や資料は、書き起こしてから要点だけをノートに落とす
YouTubeの解説動画は、書き起こしのテキストを元資料として保存し、要点だけをテーマ別のノートに追記しています。「あの動画でなんて言ってたっけ」を、動画を見直さずに調べられます。
3つに共通するのは、どれも「必要なときに引く」使い方だということです。ノートを眺めて何かを思いつくより、目の前の仕事のために探しに行く場面で効いています。
Obsidianの第二の脳を運用して踏んだ4つの罠
夜のオフィスで、ノートパソコンの画面に顔を近づけて眉をひそめる男性
ここからが本題です。フォルダを作るだけならすぐですが、動かしてからの45日で、いくつも罠を踏みました。
罠1:自動で作るノートに手で書き足したら、次の更新で消えかけた
案件ごとのノートは、案件の一覧表からプログラムで自動生成しています。一覧表を更新して再実行すれば、ノートも最新になる仕組みです。
ところが、自動生成されたノートに手で書き足した内容は、次に再実行すると上書きで消えます。 ある案件のノートだけ、他のノートの約4倍の分量があり、合意の経緯や今後の計画が手書きで入っていました。再実行する直前に気づいたので実害はありませんでしたが、1回走らせていたら消えていました。
対策として、「ここから・ここまでは手書き」という目印(コメント行)を入れ、その間だけは再生成しても残す作りにしました。24本すべてに目印が入っていることも確認しています。
罠2:名前を変えたら、ノートが2つに分かれた
取引先の表記を英字からカタカナに揃えたところ、新しい名前のノートが別に作られ、古いほうのノートが知見ごと取り残されました。 ファイル名が変わると、プログラムからは別の案件に見えるからです。
名前を変えたときは、古いノートの手書き部分を新しいノートへ移したか、必ず確認する手順にしました。
罠3:リンク切れの点検が、切れていないリンクを「切れている」と言う
点検の一つに、[[ ]] のリンク先が存在するかどうかの確認があります。これが、実際には存在するノートを「無い」と判定することがありました。
原因は、日本語の文字の表し方の違いです。Macのファイル名は、「が」を「か+濁点」の2文字に分けて保存します。一方、ノートの本文の中では「が」は1文字です。見た目は同じでも、コンピューターは別の文字列として比べてしまいます。比べる前に、文字の表し方を揃える処理(正規化)を入れることで解決しました。
もう1つ、AIの側の記憶の名前を [[ ]] でノートに書いてしまい、リンク切れを3回作っています。AIの記憶はノートの棚の外にあるので、リンクにはできません。今は普通の文字で書くルールにしています。
罠4:たまった情報は古くなる。「全部移す」もできない
AIの料金や提供状況は、数週間で変わります。公式ブログに「順次提供予定」と書かれていた機能を「まだ使えない」とノートに書いていたら、実際には私のアカウントでもう使えていたことがありました。
そこで、週に1回、日曜の朝に「古くなっていそうな記述」を洗い出して、2、3件だけ公式情報で確かめ直す定期作業を入れました。上書きはせず、「○月○日に確認済み」という1行を足すだけです。
また、別のAIサービスにためていた資料を「全部移そう」としたときのことです。棚卸しすると、ノートブック70冊・資料505件のうち、テキストとして移せる手書きのメモは9件しかありませんでした。 残りはスライドや音声などで、移しても読めません。移すのはやめて、「どの冊に何があるか」の目録だけを第二の脳に作る形にしました。何でも1か所に集めるより、地図を1枚置くほうが現実的でした。
会社で始めるなら:向く会社と、最初の1週間
工場の事務所で、年配の男性と若い社員がパソコンの画面を一緒に見ながら話している様子
向いている会社
- 社長や担当者の頭の中にノウハウがあり、「あの人に聞かないと分からない」業務がある
- 調べものや提案が多く、同じことを何度も調べ直している
- パソコンの中のファイルをAIに読ませることに、社内の合意が取れる
向かない、または先に決めることがある会社
- 複数人で同時に同じノートを書き換える運用(Obsidianは基本的に1人用の道具です。共有するなら仕組みを別に考えます)
- 顧客の個人情報をそのまま書き込みたい場合(ノートに入れる情報の線引きを、先にルールにしておく必要があります)
始めるなら、最初の1週間はこれだけで十分です。
1. Obsidianを入れて、00_inbox と notes と index.md の3つを作る
2. 1週間、思いついたことを全部inboxに放り込む。整理しない
3. 週末に、AIに「inboxを読んで、テーマ別のノートに整理して」と頼む
整理の出来に不満があれば、そのときに「1ファイル1テーマ」「日付をファイル名に入れる」などのルールを足していけば大丈夫です。最初から完璧な分類を決める必要はありません。
まとめ
Obsidianで作る第二の脳は、道具よりも「誰が何をするか」の分担で決まりました。45日運用して分かったことを5つにまとめます。
1. 人は放り込むだけ。整理はAIの仕事にする。 人が分類を始めると続かない
2. 中身がただのテキストファイルなので、AIがフォルダごと読める。 ここがObsidianを選ぶ理由
3. 自動生成するノートには、手書きしてよい範囲の目印を入れる
4. リンクの点検は、日本語の文字の表し方を揃えてから比べる
5. 情報は古くなる前提で、週1回だけ確かめ直す。 全部を集めず、目録で済ませる判断も持つ
ためた知見がいちばん役に立っているのは、商談の準備と、新しい相談に似た案件を探す場面です。メモの置き場を1つに決めたので、少なくとも「どこに書いたか」で迷う場所は1か所になりました。
出典(2026年9月17日時点)
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