自社のホームページに、AIのチャットボットを置きました。右下の「質問する」ボタンから、料金でもサービス内容でも聞ける案内役です。1か月ほど本番で動かしてみて分かったのは、動かすまでより、動かしたあとのほうが罠が多いということでした。
作ること自体は、そこまで大変ではありません。難しいのは「HPを直したのに、ボットだけが古いことを言い続ける」という状態をどう防ぐかです。実際に4つ踏みました。同じことをやろうとしている方のために、順に書いておきます。
そもそもの構成:ブラウザから直接AIを呼んではいけない
まず土台の話です。AIのチャットボットは、ブラウザからAIのサービスへ直接つなぐ形にはできません。AIを呼び出すためのAPIキー(利用者を識別する鍵のようなもの)を、ブラウザ側に置くことになるからです。 ホームページのソースは誰でも見られるので、鍵をそこに書くのは玄関に鍵を貼っておくのと同じことになります。
そこで、あいだに中継役を1枚挟みます。
ブラウザ(HP) → GAS(鍵はここに置く) → AI
GASはGoogle Apps Scriptの略で、Googleアカウントがあれば無料で使えるサーバー代わりの仕組みです。鍵はGAS側の設定欄(スクリプトプロパティ)に置き、ブラウザからは「質問文」だけを送ります。当社のHPはもともとお問い合わせフォームの送信でGASを呼んでいたので、同じ経路に乗せました。
そして知識の部分。ボットに何を答えさせるかですが、ここは公開されている完成後のHTMLから自動で作るようにしました。項目を手で書き写すと、HPを直すたびに書き写しが必要になり、必ずどこかで古くなるからです。
罠1:ページを増やしても、ボットだけが知らない
自動生成にしたので安心していたら、さっそく外しました。
新しいページを公開した直後、ボットに聞くと一般論しか返ってきません。原因は単純で、知識を作るスクリプトが「どのページを読むか」を明示的に並べて持っていたためです。ページを新設しても、その一覧に足さないかぎり読みに行きません。
自動生成にしても、入力の範囲だけは人が管理している。ここは意識しておかないと、増やしたページほどボットが知らないという状態になります。当社では「新しいページを作ったら一覧に足す」を手順書に明記しました。
罠2:人格の設定に直書きした事実は、知識を作り直しても残る
これがいちばん怖い罠でした。
ボットには知識とは別に「人格」の設定文があります。話し方、答えてよいこと、絶対にしないこと。その中に、問い合わせ先の案内文を書いていました。
当社は2026年8月に、HPから電話番号を外して問い合わせをLINEとフォームに一本化しています。HPの文言は直しました。知識も作り直しました。それでもボットは、撤去したはずの電話番号を答えました。 人格の設定文に直書きしてあった1行が、自動生成の外側に残っていたからです。
「自動化した」と思った瞬間から、自動化されていない場所が見えなくなります。 会社の基本情報(連絡先、料金、方針)を変えたときは、知識だけでなく人格の設定文も同時に確認してください。
罠3:コードを送っても、本番は変わらない
GASにはコードを送る操作(push)と、公開されているURLを更新する操作が分かれています。ここを混同しました。
push は「コードを置いた」だけで、公開URLは指定したバージョンに固定されたままです。つまりpushが成功しても、実際に動いているのは古いコードです。実際、知識を作り直してpushした直後のボットは、まだ以前の内容で答えていました。成功メッセージが出たことと、本番が変わったことは別物です。
正しくは、既存の公開設定を上書き更新する操作(redeploy)まで実行して、はじめて反映されます。そして反映されたかどうかは、コマンドの結果ではなく実際のブラウザでボットに話しかけて確認するのがいちばん確実です。
罠4:ウィジェットがサイト側のCSSを拾う
見た目の話も1つ。
チャット窓の外枠をHTMLの section タグで作ったところ、パネルの高さが指定の504ピクセルに収まらず、682ピクセルまで膨らみました。原因はサイト全体に効いているCSS(見た目の指定)で、「section の上下に88ピクセルの余白をとる」というルールを、後から載せたウィジェットが拾ってしまったためです。
既存サイトに部品を後付けするときは、その部品の中だけサイト側の指定を打ち消すのが定石です。当社は外枠を汎用のタグに変えたうえで、ウィジェット配下の余白と寸法計算をリセットしました。
費用が青天井にならないための歯止め
公開ページに置くということは、誰でも叩けるということです。AIの利用料は使った分だけかかるので、上限を決めておかないと、いたずら1回で費用が跳ねます。当社は4段階で押さえています。
- 1通あたりの長さ(長文を投げ込ませない)
- 同じ訪問者が続けられる往復数
- サイト全体で10分あたりの呼び出し回数
- サイト全体で1日あたりの呼び出し回数
ここで注意点が1つ。GASのウェブアプリはアクセス元のIPアドレスを取得できません。 「同じ人を何回まで」という制限は厳密には作れないので、訪問者ごとの目印と全体量の2段構えで押さえるのが現実的な落としどころになります。
効果はどう評価するか
最後に、期待の置きどころです。
チャットボットは検索対策(SEO)の足しにはなりません。 やり取りの中身は検索エンジンに届かないので、検索順位には一切効きません。評価すべきは「問い合わせの手前で離脱していた人を、どれだけ会話に引き止められたか」です。
だからこそ、答えられないことを正直に断る設計が要ります。 当社のボットは、個別の見積金額を聞かれたら「代表より個別にご案内します」と返し、サイトに書いていないことは推測で答えません。過大に見せると、最初の会話で必ず崩れるからです。できないことを先に決めておくほうが、結果的に信用されます。
まとめ
自社HPにAIチャットボットを置くとき、作る前に決めておくべきことは4つです。
1. 鍵はブラウザに置かない。 あいだに中継役を1枚挟む
2. 知識は完成後のページから自動生成する。 ただし読ませるページの一覧は人が管理していると自覚する
3. 人格の設定文に事実を直書きしない。 直書きしたぶんは自動更新の外側に残る
4. 本番に反映されたかは、実際に話しかけて確認する。 送信の成功は反映の証明にならない
そして費用の上限を先に決めること。ここまでやってはじめて、安心して公開ページに置ける状態になります。
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