Googleのクチコミ、店頭に置いたアンケート用紙、LINEで届いた感想。点数は星4前後で悪くないのに、「で、明日から何を直せばいいのか」が分からない。 そんな状態で、紙の束とスクリーンショットだけが溜まっていませんか。
点数は結果しか教えてくれません。理由が書いてあるのは、いつも自由記述のほうです。ただ、自由記述は読むのに時間がかかる。100件を1件30秒で読んでも50分、しかも読み終わる頃には最初の30件を忘れています。だから後回しになる。ここはAIがとても効く領域です。
ただし、「このアンケート、要約して」と投げるのがいちばんまずい使い方です。 私自身が自社の記録でこれをやって痛い目を見たので、その失敗も含めて、代わりにやるべき手順を書きます。
なぜ「要約して」だけでは失敗するのか
理由1: 要約は多数派に寄る。1件しかない声が消える
要約は「読みやすくまとめる」作業です。同じことを言っている20件は太字で残り、たった1件だけの指摘は、まとめる過程で削られます。
ところが店舗改善で本当に効くのは、その1件だったりします。「駐車場から入口までの段差でベビーカーが引っかかった」は、たいてい1件しか出てきません。書かなかった人が困っていないわけではなく、わざわざ書く人が少ないだけです。多数決で消してよい情報ではありません。
理由2: 要約の過程で、言っていないことが混ざる
これは私の失敗です。打ち合わせの記録をAIの要約に任せていた時期があり、2026年8月に元の発言と突き合わせたところ、「ドメインを年間払いにすれば」という発言が「サーバーを年間契約にした場合」にすり替わっていました。 さらに、相手が言っていない条件がさらっと1行足されている箇所もありました。
AIに悪気はありません。要約は文章を組み立て直す作業なので、話し手が曖昧に言った箇所へ、AIが良かれと思って補助線を引くのです。読みやすくはなりますが、事実は変わっています。
自由記述でも同じことが起きます。「接客は感じが良かったが、待ち時間が長い」が「概ね好評だが一部に改善要望」へと丸められた瞬間、その情報はもう使えません。
正解の型: 要約させず「ラベルを付けて数える」
やることを一言でいうと、AIには考えさせず、仕分けだけさせるということです。
- やらせないこと: 要約、言い換え、総括、「全体としては良い評価です」のようなコメント
- やらせること: 1件ずつに「どの話題か」「良い声か悪い声か」のラベルを付け、原文はそのまま残す
こうすると、AIが手を加えた文章はゼロになります。判断材料は自分の目で読める原文のまま残り、AIは並べ替えと下ごしらえだけを担当します。集計と判断は、この後で人がやります。
ステップ1: 1枚の表に集めて、名前を消す
まず、バラバラの場所にある声を1か所にまとめます。列は3つあれば十分です。
- 日付(いつの声か)
- 入手先(Googleクチコミ/店頭アンケート/LINE/電話)
- 本文(自由記述をそのまま。誤字も直さない)
紙のアンケートは、スマホで撮った写真をそのままAIに読ませて文字起こしできます。このとき1件1行を崩さないことを必ず指示に入れてください。
そして、AIに渡す前に個人が分かる情報を消します。 氏名、電話番号、「木曜午前担当の◯◯さん」のような社員個人の特定につながる書き方も含みます。担当者名は「スタッフA」に置き換えれば、分析には十分です。無料版のチャットは入力内容が学習に使われる場合があるので、会社として続けるなら学習させない設定にした有料版・法人向けプランに寄せてください。
ステップ2: 分類させる。プロンプトはこれで足ります
Gemini でも ChatGPT でも構いません。表を貼り付けるか、CSVを添付して、次のように頼みます。
添付は当店に届いたお客様の声です。1行が1件です。
要約・言い換え・総括は一切しないでください。
本文の原文は1文字も変えずにそのまま残してください。
各件について、次の3つだけを付けてください。
1. 話題タグ(例: 待ち時間/接客/価格/品揃え/清潔さ/駐車場・アクセス/
会計・支払い/その他)から1つだけ選ぶ
2. 極性(良い/悪い/どちらとも言えない)
3. その件が「具体的な行動に移せる指摘」かどうか(はい/いいえ)
出力は表形式で、列は「番号・日付・入手先・原文・話題タグ・極性・行動可否」。
入力が何件で、出力が何件になったかを最後に必ず書いてください。
判断に迷った件は、勝手に決めずに「要確認」と書いてください。
ポイントは3つです。タグは自由に作らせず、こちらが用意した選択肢から選ばせる(自由にさせると似た意味のタグが乱立して数えられません)。「行動に移せるか」を分けさせる(「良かったです」は嬉しいですが、明日の改善には使えません)。そして迷ったら「要確認」と書かせる。AIは黙って決めてしまうので、迷いを表に出させるだけで精度が変わります。
ステップ3: 数える前に、件数を必ず突き合わせる
ここがいちばん大事で、いちばん飛ばされる工程です。
入力した件数と、出てきた件数を数えてください。 帳票の読み取りを自動化した実案件で、キーになる欄が空欄だった行がエラーも警告も出さないまま、静かに消えていたことがありました。合計だけ見ていれば気づけません。件数を数えて初めて分かりました。
自由記述でも同じです。空欄、絵文字だけ、極端に長い投稿。こうした行は落ちやすい。数が合わなければ、その分析結果は使わない。 これだけ決めておけば、静かな間違いをそのまま経営判断に持ち込む事故は防げます。
件数が合ったら、話題タグごとに「悪い」かつ「行動に移せる」の件数を数えます。ここは表計算ソフトの集計で十分です。そして、上位1つだけに着手します。 3つ同時に手を付けると、次のアンケートでどれが効いたのか分からなくなります。
実際に何が変わるか
100件の自由記述を人が読んで分類すると、1件30秒でも50分かかります。集中力も持ちません。分類をAIに任せれば、人の作業は「件数照合」と「上位1件を決める」だけになり、同じ判断に15分もかかりません。 ここは特別な技術ではなく、単純な引き算です。
もっと大きい変化は、時間ではありません。毎月同じ手順で数えるようになると、前月と比べられるようになることです。「待ち時間」の指摘が先月8件で今月3件なら、打った手が効いています。減っていなければ、直した場所が違ったということです。星の平均点は動きが鈍くて、この判定には使えません。
紙のまま束ねてあるアンケートは、残念ながら1年経っても何も教えてくれません。表に起こして、タグを付けて、数える。この3つだけで、お客様の声は「読むもの」から「使うもの」に変わります。
まとめ
- 「要約して」は禁物。 多数派に寄せられ、1件しかない大事な指摘が消える
- 要約はまた、事実を作り替える。 自社の記録で、発言していない条件が足されていた実例あり
- AIにやらせるのはラベル付けだけ。原文は1文字も変えさせない
- 渡す前に氏名・電話番号・担当者名を伏せる。 続けるなら学習させない設定のプランへ
- 入力件数と出力件数を必ず突き合わせる。 合わなければ結果を使わない
- 改善は上位1つだけ。翌月に同じ数え方で比べて、効いたかどうかを確かめる
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