「うちの社員、どうもChatGPTを使っているらしい。止めたほうがいいのか、放っておいていいのか」
社員が数人の会社の社長から、よく受ける相談のひとつがこれです。便利なのは分かる。でも、お客様の名前や見積の金額を入れていたらどうしよう。かといって、大企業のような分厚いAIガイドラインを作る時間も人もいない。結局、何も決めないまま半年が過ぎている。
実は、この「何も決めていない」状態が、中小企業ではいちばん多い形です。
商工中金が2026年1月に行った中小企業向けの調査では、生成AIの導入状況について 「会社として導入しておらず、使うかどうかも個人の判断に任せる」が64.9%で最多 でした。禁止・制限しているのは「その他」と合わせても3.9% です。つまり中小企業の大半は、AIを禁止しているのではなく、決めずに置いている のです。
同じ調査で、AIを導入した会社が次に困っていることの1位は 「社内ルール・方針整備が追い付かない」(25.1%) でした。使い始めた会社ほど、ルールが要ると感じています。
この記事では、社員5人前後の会社が A4の紙1枚で作れるAI利用ルール を、書く項目・そのまま使える文例・作ったあとの1か月の動き方まで、順番に書きます。法務部も情報システム部もない会社を前提にしています。
昼休みの事務所で、スマートフォンを片手にノートパソコンへ打ち込もうとして手を止める社員
この記事の目次(7項目)
中小企業のAI利用ルールは「禁止」でも「放置」でもなく、1枚の約束にする
まず、ルールの目的をはっきりさせておきます。社員にAIを使わせないためのルールではありません。安心して使える範囲を、先に決めておくためのルール です。
禁止にすると、何が起きるか。便利さを知っている社員は、自分のスマートフォンや個人のアカウントでこっそり使い続けます。会社からは誰が何を入れたのか見えなくなり、危なさはむしろ増えます。この「禁止すると見えなくなる」話は、群馬県庁のAI部で聞いた声と合わせて、AIの情報漏洩対策、禁止は逆効果|群馬の現場で見た3手順 に詳しく書きました。
一方で、放置のままでは、社員の側が困ります。
- 「お客様の名前を入れていいのか分からないから、結局使わない」
- 「使っていいと言われていないので、使っていることを言い出せない」
- 「AIが作った文章を、そのまま取引先に送っていいのか分からない」
真面目な社員ほど、線が引かれていないと手が止まります。決まっていないことが、使わない理由にも、隠れて使う理由にもなっている のが放置の状態です。
だから、禁止と放置のあいだに「1枚の約束」を置きます。分厚い規程にしない理由は単純で、社員5人の会社で、10ページのガイドラインは誰も読まないから です。朝礼で読み上げて5分で終わる量。壁に貼って、迷ったときに目で見て確かめられる量。それがA4の1枚です。
社員5人の会社のAI利用ルール。1枚に書くのはこの5項目だけ
事務所の壁のコルクボードに、A4の紙1枚を画鋲で留める社長の手元
AI利用ルールに書く項目は、次の5つで足ります。
| 項目 | 決めること | 決めないと起きること |
|---|
| 1. 使ってよい道具 | 会社として使ってよいAIの名前と契約 | 各自がばらばらの無料サービスを使う |
| 2. 入れてはいけない情報 | 情報を3段階に分けた線引き | 「何となく不安」で誰も使わない |
| 3. 外に出す前に人が見る | 送信・発注・公開の前の確認 | AIの間違いがそのまま取引先へ届く |
| 4. 迷ったときの相談先 | 聞く相手の名前を1人 | 聞けずに自己判断する |
| 5. 見直す日 | 次にこの紙を見直す日付 | 半年後に誰も覚えていない |
それぞれ、何を書けばよいかを説明します。
1. 使ってよいAIの道具を、名前で決める
「AIを使ってよい」ではなく、「このAIを、この契約で使ってよい」 と名前で書きます。
ここで大事なのは、無料版と法人向けの契約は、中身が別物だと考えること です。多くのAIサービスは、法人向けの契約や設定では「入力した内容をAIの学習に使わない」と公式に明記しています。一方、無料版や個人向けの設定では、既定のままだと学習に使われる場合があります。
すでにGoogle WorkspaceやMicrosoft 365を契約している会社なら、その中のAIを使うのが最短です。追加の契約や費用を抑えやすく、社員のアカウント管理も今のままで済みます。
2. 入れてはいけない情報を、3段階で線引きする
「機密情報は入れないこと」とだけ書くと、社員は何が機密なのか判断できません。例を添えて、3つに分けます。
- 入れてよい: ホームページやチラシに載っている情報、一般的な文章の下書き
- 会社の契約したAIでだけ入れてよい: 社内の業務データ、見積や資料の下書き
- 入れない(伏せてから使う): お客様の個人情報、従業員の給与や健康に関すること、取引条件、図面や未公開の計画
3段階目は「使えない」ではなく、「名前や金額を伏せてから使う」 と書いておくのがコツです。「A社様」「◯◯円」に置き換えれば、文章の相談は十分にできます。
3. 外に出す前に、必ず人が見る
AIは、それらしい間違いを平気で書きます。金額の計算違い、存在しない日付、相手の名前の取り違え。どれも、AIが作ったものをそのまま送ると、会社の信用に直結します。
そこでルールには、「メールの送信、見積や請求書の発行、発注、ホームページやSNSへの公開は、AIが作ったものを人が読んでから行う」 と書きます。AIには下書きまでを任せ、最後のボタンは人が押す。この一文があるだけで、社員は安心して下書きをAIに頼めるようになります。
4. 迷ったときに聞く相手を、1人だけ決める
社員5人の会社なら、たいていは社長か、事務の中心にいる方です。名前で1人 書きます。「総務まで」のような部署名は、小さな会社では誰のことか曖昧になります。
あわせて、「うっかり入れてしまったときも、すぐに言えば責めない」 と書いておきます。隠されるのがいちばん困るからです。
5. 見直す日を、日付で書く
AIのサービスは、数か月単位で機能も規約も変わります。ルールを作った日と、次に見直す日を紙の一番下に書いておきます。最初の見直しは1か月後、その後は半年ごと くらいが無理のない間隔です。
そのまま使える、AI利用ルールのひな形(A4・1枚)
工務店の打ち合わせテーブルで、社長と事務員が1枚の紙を間に置いて話している
上の5項目を、そのまま紙にするとこうなります。会社名や道具の名前は、御社に合わせて書き換えてください。
株式会社◯◯ AI利用ルール
当社では、仕事を早く・楽にするためにAIを使います。安心して使うために、次の5つを守ってください。
1. 使うAI
会社が契約した ◯◯(例: Google WorkspaceのGemini)を使います。個人のアカウントや無料のAIサービスに、仕事の情報は入れません。
2. 入れてよい情報・入れない情報
・入れてよい: ホームページやチラシに載っている情報、一般的な文章の下書き
・会社のAIでだけ入れてよい: 社内の資料、見積や書類の下書き
・入れない: お客様の個人情報、給与や健康のこと、取引条件、図面。使うときは名前や金額を伏せてから
3. 外に出す前に人が見る
メールの送信、見積・請求書の発行、発注、ホームページやSNSへの公開は、AIが作ったものを必ず人が読んでから行います。
4. 迷ったら
◯◯(名前)に聞いてください。うっかり入れてしまったときも、すぐに言ってくれれば責めません。
5. 見直し
作成: 20XX年◯月◯日 次の見直し: 20XX年◯月◯日
責任者: 代表取締役 ◯◯
これで、A4の1枚に収まります。
「本当にこれだけでいいのか」と思われるかもしれません。ルールの目的は、社員が迷ったときに、その場で判断できるようにすること です。細かい例外まで書き込むと、今度は読まれなくなります。まずは1枚で始め、実際に迷った場面が出てきたら、その都度1行ずつ足していくほうが、会社に合ったルールに育ちます。
なお、より詳しいひな形が必要な場合は、一般社団法人日本ディープラーニング協会(JDLA)が「生成AIの利用ガイドライン」を公開しています。自社向けに修正して使ってよいと明記されているので、取引先から詳しい規程を求められたときの土台になります(出典は記事の最後に載せました)。
当社も、自社のAI利用方針を1枚・5項目で書いています
当社(UMEO CREATE)は社員のいないひとり社長の会社ですが、事務・発信・お客様とのやり取りの多くにAIを使っています。そこで、お客様の情報をどう扱うかを、自社の「AI利用方針」として1枚・5項目にまとめています(現在は、公開前の見直し中です)。
項目の立て方は、この記事の5項目とほぼ同じです。使う道具を決める、情報を3段階で扱う、AIは下書きで送るのは人、そして責任者と窓口を1人に決める。小さな会社ほど、この形がそのまま使えます。
書くときに気をつけたいのは、「守れる言葉で書く」 ことです。
ルールを書き始めると、つい「◯◯には絶対に入力しない」「AIの使用は一切禁止」のような強い言葉を並べたくなります。けれど、現場で守れない一文が1つでも混ざると、ほかの項目まで「どうせ形だけ」と受け取られてしまいます。強く言い切るより、「どの道具を、どの設定・契約で使うか」を具体的に書く ほうが、実際に守られるルールになります。
だから、書いたあとに社員と一緒に「これ、明日から守れる?」と確かめてください。1枚のルールは、この確認のためにあります。
ルールを作ったあと、最初の1か月でやる3つのこと
倉庫の入口前で社員が輪になって立ち、中央の人が1枚の紙を手に話す朝礼
紙を作って終わりにすると、ルールはすぐに忘れられます。最初の1か月だけ、次の3つを意識してください。
1. 今の使い方を、責めずに聞く
ルールを配る前に、「怒らないので、今どんなAIをどう使っているか教えてください」と聞きます。ここで「実は個人のアカウントで使っていました」という話が出てきたら、それは失敗ではなく成功 です。会社から見えていなかったものが見えたからです。
2. 朝礼で5分、声に出して読む
メールで送るだけでは、読まれません。朝礼や定例の最初に5分だけ、1枚を読み上げます。社員5人なら、その場で「これは入れていいの?」という質問が出ます。その質問こそが、2行目に足すべきルール です。
3. 1か月後に、困ったことを1つずつ聞く
1か月たったら、「ルールのせいで困ったこと」「ルールがあって助かったこと」を1つずつ聞きます。困ったことが出たら、ルールを直します。ルールは社員を縛るためではなく、社員が迷わず使えるようにするための道具だからです。
まとめ:AI利用ルールは、完璧さより「今日決めること」
- 中小企業の64.9%は、AIを 禁止ではなく、決めずに置いている(商工中金 2026年1月調査)
- 禁止は隠れて使う人を生み、放置は真面目な社員の手を止める。あいだに1枚の約束を置く
- 書くのは5項目だけ。使ってよい道具/入れない情報の3段階/外に出す前に人が見る/相談先1人/見直す日
- 書いたら「明日から守れるか」を社員と確かめ、1か月後に直す
ルールは、作った瞬間より、最初の1か月でどう直したか で会社に合うかどうかが決まります。
なお、この記事は社内の取り決めの作り方についての一般的な情報です。個人情報の取り扱いや契約上の義務など、法的な判断が必要な点は、弁護士などの専門家にご確認ください。
「うちの業務だと、どの情報が3段階のどこに入るのか分からない」「どのAIを会社の道具にすればいいか決めきれない」という場合は、業務の中身を伺いながら一緒に線を引くこともできます。
出典(2026年9月29日時点)
調査の数字や各団体の資料は更新されます。最新の内容は、必ず一次情報でご確認ください。
【群馬・北関東の中小企業・ひとり社長のAI導入をサポート】
UMEO CREATE(ウメオクリエイト)では、群馬県(高崎・前橋・太田・伊勢崎・吉岡町など)を中心に、中小企業や個人事業主・ひとり社長様向けの「AI導入・業務自動化・DX伴走コンサルティング」を行っています。
「自社の業務でもAIを使える?」「何から手をつければいいかわからない」「面倒な事務作業を自動化したい」といったご相談は、お気軽に公式LINEまたはWebサイトのお問い合わせフォームよりご連絡ください。